電飾打掛スーツ

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「不完全なるもの」

2008年の春 私は寺江圭一朗さんという作家に出逢いました

寺江さんは たくさんの眩い白色LED(発光ダイオード)を直径1m程のステンレス製の円盤に規則正しく取り付けたものを背負い まるで後光が差すように自らの頭部の背後で発光させていました

私はその時 紅白ストライプのスーツを着用しており 互いに相手の身なりに関心を抱いた私たちは「今度一緒にやろう」と約束をしました

当時 私は日本の伝統的な花嫁衣裳である打掛を解体し 紳士用スーツに仕立て直す仕事をしていました

朱地に金糸や銀糸で鶴や松などが刺繍された絢爛豪華なスーツで それだけでも十分美しく意味のある「衣」だと思っていましたが 寺江さんとのパフォーマンスのため そのスーツの全身に白色LEDを取り付けることにしました

寺江さんの作品は「人用カミサマの後光」と題され その光背を装着すれば誰でも神になることが可能であり 救いを求めている人々に希望を与えられるだろうという意図のようです

調べてみると 光背とは頭部にあるものを「頭光」 頭部以外の身体にあるものを「身光」 その両方にあるものを「挙身光」と呼び 通常は頭光または挙身光が用いられ 身光だけというのは有り得ないようです

従って 寺江さんの光背作品は後光として成立し 彼が唱えるようにカミサマになれるかもしれませんが 私の身光スーツは不完全な光背ということになります

しかしながら 私は到底 神になれない不完全な人間ですから それで良いと思いました

むしろ 不完全こそが人間らしさだと思っています

私の制作はいつも試行錯誤で 失敗の積み重ねの結果が作品です

出来るだけ完璧な完成品を作ることを目標にしていますが 苦心の跡が見える未完成品にも魅力を感じることがあります

大切なことは 今の社会で起こっている物事に対し あるいは歴史的背景や将来展望について 自分の視座を明快に持ち 現在手に入れられる身近な材料や媒体を介して美を追求することだと信じています

電飾打掛スーツは 日本の伝統的な花嫁衣裳を西洋の紳士スーツ(詰襟ジャケット=軍服スタイル)に仕立て直し 先端技術で作られた光源を用い電飾したものです

つまり 女性:男性 日本(東洋):西洋 伝統:先端 結婚:戦争の対立(相反)因子を以って「性」と「古今東西(時空)」と「生と死」の交差をテーマとしています

私はこの衣装を身に着けて出歩くことにより 人と出会い 会話を交わし 一緒に写真を撮りたいと要望されれば快諾し 見知らぬ人たちと一緒に記念写真に収まるという「人々との交差」を行っています

そして 時には出来る限り無心となり 自然の声や都市の騒音を聞き あるいは音楽家の演奏を聴き 五官から伝わってくる感覚を身体的に表現する「自然体の舞い」を行っています

それは 自らの作為を払拭するために試みていることです

電飾打掛スーツはプロトタイプ(試作品)を含め10着が完成しています(2009年12月末現在)

私の電飾衣装は この打掛スーツ以外に宮島達男氏のデジタル・カウンターを取り付けた「カウンター・スーツ(1998年)」に始まり 小型電光掲示板を取り付けた「LEDスーツ(1999年)」・音量に同期してLEDが明滅する「ピークレベルメーター・スーツ(2000年)」 そして白と黒の鳶服を電飾した2点組衣装(2009年)があります




(この記事は 作品に関する作家のコメントであり 内容は加除訂正されることがあります)