欲望その84

係員を呼び止める

すいませぇん こっちこっち

何のリアクションもない
耳が聞こえないのか

ちょっとぉ こっちを開けてくれ

無視された
私が滑車を回していないから
もう一度やらせるつもり か

次々と滑車の扉が開けられ
ゲストが解放されていく
しばらくすると 次の組が入って来た

何か怒鳴っている声が聞こえる
どうやら 入りたくないらしい
その気持ちは よくわかる
こんな 人を人とも思わないような作品は願い下げだ

私の滑車のところまで来て まだ怒鳴っている
すると大柄で強面の係員が来た

どぉかしましたかぁ

ドスの効いた低い声だ
ここは風俗店じゃないんだから こういう手法はやめてほしい

そのゲストは私の隣の滑車に入れられた
かなり怒っているようで 私が前の組だったことに気がついていない
私が座り込んでいるのを見て そのゲストも座り込んだ

しばらくすると 開始のアナウンスが流れた
隣のご立腹さんは 腕組みしてあぐらをかいている
私は立ち上がり 滑車を回した
となりの奴と一緒に もう一度やるつもりはない

超越 とは 今の自分を超える ことなのか

回してみると 意外に面白く
まるでランニングマシンのようだ
金網を通して見えるほかのマシンの金網と重なり
モアレ現象を起こしている

終了のアナウンスが流れ 扉が開けられていく
係員がわたしのところへ来て
お疲れ様でした といって扉を開けてくれた
出口はあちらですので お進みください と
やさしく誘導してくれた

そして 係員はご立腹さんの滑車の横を通り過ぎ
次の滑車を開けた

ご立腹さんは 何してんだよ 開けろぉ と怒鳴っている
係員は私の方をちらっと見て にこっとした