A.I.R

作品が売れて まとまったお金を手にすることになったが

展覧会のコミッショナーや協力者 そして

販売委託をしている画廊などへの支払いで300万円が消えた


残り400万円を何に使うか と考えた末 1年間海外で暮らそうと決めた

A.I.R(アーティスト・イン・レジデンス)

と呼ばれる滞在制作活動が 当時流行していた


私は「衣」の作品を作っていたので

ファッションとアートの先端を行くニューヨークかパリへ行きたいと思った

インターネットで検索し 滞在+制作+発表ができる施設を探した

パリの中心地にCite Internationale des Artという

レジデンスがあることを見つけ 資料を取り寄せたら全てフランス語だった

当然のことながら 申込書もフランス語で記入するようになっていた

フランスに長く滞在していた友人に頼んで翻訳してもらった

在日フランス大使館の文化部に知人がいたので 推薦状を書いてもらい

それを添えて滞在の申込書を郵送した


ニューヨークにもA.I.Rがあったが インターネットで検索すると

マサチューセッツ州に 広いスタジオがあるA.I.Rを見つけ

早速 作品の資料を添えて電子メールで滞在の申し込みをした

CAC(Contemporary Artists Center)という

そのレジデンスのディレクターから 返事のメールが届いた


来年(1999年)はCACの10周年であり

MASS MOCA(マサチューセッツ現代美術館)がオープンするので

その記念行事とオープニングに合わせて個展を開いてほしい


私はCACに滞在し 個展を開催する機会を得た が

渡航費は出ないし 若干の滞在費を払わなければならない

5月中旬の予定だ

台北からの入金は4月の予定だったが それを当てにして もし入金が遅れたりすれば

せっかく得た海外滞在と個展開催の機会を逸してしまう


当時 私は都市計画の研究所に勤務していた

リストラがあって 多くの所員が辞めていった

残った所員の給与は減らされたが 仕事量は増えた


それでも私は辞めずに 経営陣とうまくやっていた

海外に滞在する期間は 休職させてもらおうと考えていたが

少ない所員で仕事をこなしている状態で

そんな都合のよい話は受け入れられるはずがない


私は 辞表を出した

リストラのときより条件は悪かったが 100万円余の退職金を手にした

これで一応 アメリカへの旅費は確保できた