芸美大受験予備校の講師

大学院生のとき 出身予備校から夏期講習の講師を依頼された
時給は2千円位だっただろうか・・・
1日6時間みて1万2千円 10日間ほどやって12万円

いろんなバイトをしてきた中で この仕事は一番楽だった と思う
受験生が描く絵を 独断で評価して 言いたいことを言えばいい

受験生にとって当時の私は 憧れの芸大生 しかも
その予備校から芸大の油画専攻に合格したのは それまで私1人だけ・・・
神話のようになっていたらしい

私がアトリエに入って行くと 皆が緊張しているのを感じる
しかしそれは その場の空気だけで 絵には緊張感がない

芸大美大の入学試験合格を目的としている筈なのに
そこにいた受験生たちの意識は低かった

絵画の技法を教える前に その性根を叩き直す必要があった が
意識の低い者たちが結束すると こちらが何を言ってもだめ
案の定 翌春は惨憺たる結果だったと聞いた



それから3年後 その予備校の油絵科の講師が辞めるというので 私に講師の依頼が来た
私は大学院を出て企業戦士になっていたので 引き受けられなかったが
何とか夜間部だけでも と頼まれたので仕事帰りに行くことになった

昼間部の講師を紹介して欲しい と頼まれたので その予備校の出身者で
当時 私と仲がよかった後輩のD君を紹介した

(D君については 言いたいことがたくさんある が
 死んでしまったので コメントは控えることにする)

私は2年間 その予備校の油絵科をみたが あることをきっかけに辞めてしまった

2月に私立の美大の試験があり 下旬には殆どの合格発表が終わる
芸大は3月上旬に1次・2次と試験があり 20日に最終の合格発表がある

私大の入試が終わったら 芸大の入試に向けて猛特訓しなければならないのに
その予備校は 私大の結果が出ると今期はもう終わり という空気があった

D君が指導していた昼間部の浪人生は1人も 私大に受からなかった
私は油絵科の受験生全員を集めて 芸大入試特別講習をしていた最中
講師会があるというので講師室へ呼ばれた

すると 反省会が始まったので 私はこう言ってその場を去った

これから芸大の入試があって 今は一番大事な時なのに 何で反省会なんかするんですか
まだ終わってませんよ! この予備校は芸大は関係ないんですか?
だったら 芸美大受験科と言わないで 美大受験科にしたらいいじゃないですか
私は今 芸大入試対策の直前講習で忙しいので こんな講師会には出てる暇はありません

予備校の主事をはじめ その場にいた講師全員は さぞ驚いただろう
意識が低かったのは受験生ではなく 指導者たちだった

私は芸大に合格する極意を受験生に伝授し 1人1人の個性にあった描き込み技法を教えた
1次試験は3名が通過した それだけでも その予備校としては快挙だった

私が教えられることは すべて教えたので 私はその予備校へ行かなかった
合格発表の日 受験生から電話があり 2名が合格した と報告を受けた
祝賀会があるから来て欲しい と誘われたが 私は仕事の都合で行けない と断った



(余談)
その後 その予備校から芸大に入ったという話は聞かない
何年か経って聞いたのは 芸美大受験科が無くなった ということ
当然でしょう 合格者が出ない予備校なんて 存在価値がありますか