欲望その132の3

イメージ 1

この建物は 化学構造式をモチーフに設計したんだ
物質の名前は 今 思い出せないけど
とにかく複雑そうなのを選んで プラン化してみた

と説明すると 美人建築家はこう言った

一応 理想の家のひとつ ってことになってるけど…

そう 3年前の個展で
「あなたにとって 理想の住まいとは どのような ものですか?
 建築費や維持費など一切の経済的条件を考えず 文章でお書きください」
と募集したんだけど そのひとつが こうだったんだよ

私は地面に書いた


   五

矢 口 隹

   止


それ知ってる つくばいでしょ

そう 下の字は 止 じゃないけど
吾唯足知(われ ただ たるを しる)
って読むんだっけ
この建物のどこかに つくばい があるから行って見よう

はい と女性建築家は答え
ふたりとも少し早足になる

周囲にジグザク状のパネルや柱が立ち並ぶ
それは 意匠的なもの なのか
構造上必要なもの なのかわからない

奥へ進むとパネルの切れ目の中に
つくばい があった

あっ これこれ 竜安寺にあるのと同じです

と美人建築家が言って 写真を撮っている
建築探訪の記事に載せるつもりか

美人建築家は私の方を振り向き