就職先での出会い

当時はバブル景気で 就職先に困ることはなかった

加えて 芸大の大学院を出て企業へ就職する学生は少なかったため

面接試験へ赴くと 貴重な人材として どこの企業も歓迎してくれた

結局 私は学部2年生のときからアルバイトをしていたディスプレイの大手企業へ就職した

内情を知っているため そこならやっていけると思った

その企業のデザイナー職はジーパン姿で勤務してもよかったし

博覧会の仕事が多かったので お祭り気分で勤められた

しかし 自由な社風の企業でも 入社すると 新入社員研修があって

ビジネスマンとしてのマナーを叩き込まれ

それまでの学生生活が温室だったことに気が付いた

それに 芸大生というは一種のプレミアだと思っていたが それは勘違いだった

その人間が何をしてきたのか ということより

会社のために何をしてくれるのか ということが重視される

私は会社に貢献しよう という気がなかった

自分の作品が評価され 早く作家として認められたい と思っていた

50人ほどいた同期入社の中で 同じ部署に配属されたY君は

信じられないくらい口先が達者だった

本をよく読み 知識も豊富だ

妙に気が合って 建築コンクールに一緒に応募しよう と

仕事の合間に提出作品を作り いくつか応募してみたが 一度も入選しなかった

私は 何らかの評価を得て 早く作家として活動したい と 躍起になっていた

美術のコンクールへも応募したが 入選止まりで なかなか賞はもらえなかった

Y君は 私の箱の作品を見ると 閉じてるな と言った