欲望その2の2(フランスの話)

私たちはBXに乗って 緑の丘へ向かった

「このクルマ 乗り心地 いいですね」

「ああ そう? フランスのクルマなんだ」

「フランス 好きなんですか?」

「んー 微妙・・・ 大好きだったんだけど 住んだら そうでもなくなった」

「えー 住んでたんですか どこに?」

「パリ・・・の4区 ポン・マリーの近く・・・サン・ルイ島の対岸」

「住んでみて どういうところが嫌になったんですか?」

「そーねー かなりアバウトなところ・・・デザインはいいんだけど性能がイマイチ・・・でも彼らは自分たちがNO.1だと思ってるふしがある」

スノッブってことですか?」

「まあ そんなとこかなー でも いいところもある」

「たとえば?」

「パンはおいしい! サン・ルイ島にあるパン屋のバゲット・ランシエンヌは絶品!」

「ランシエンヌって?」

「昔の っていう意味・・・ 昔の製法で作っている ちょっと皮が硬いバゲット

「おいしそうですね!」

「最近は日本でも作って売ってるけど あまりおいしくない」

「そうなんですか・・・」

「そうそう あ ちょっと待ってね 通常走行モードに切り替えるから・・・」

「そのレバーで車高調節するんですね」

「そうそう ちょっと低くなったでしょ」

「本当!」

「あー どこまで話したっけ?」

バゲットの話・・・」

「そうそう あと ワインはおいしいねー 安いし」

「食べ物とか飲み物しかいいところないんですか?」

「あと 街並みはきれいだね」

「そうですね♪ パリは素敵ですよね」

「そうそう ポンピドーセンターを造るとき 揉めたみたいだけど ああいう斬新なデザインを古い街並みに入れてしまうことが普通できない」

「でも パリの観光名所になってますよね」

「建築は集客装置なんですよ」

「まっ! 古い言葉」

「昔 はやったよねー・・・んー この辺かな? 緑の丘は・・・」

「あー そうですね ここなら家を建ててもいいと思います」

「そお? ここに?」

「はい」

「環境破壊じゃない?」

「いいえ」

「どうして そう言えるの? 木を切らないとだめでしょ」

「切らなくていいんです ちょうどいい地形があるんです この先に・・・」

「どこ?」

「もう少し 行ってください」

「オーケー!」

「えーと ここです クルマを停めてください」

「ダ・コー!」

「えっ?」

「フランス語でオーケーってこと」

「知ってます」

「じゃあ 降りよっか」

「はい」