子ども絵画教室の講師

私が通った芸美大受験予備校は横浜YMCA
YMCAにはいろいろな講習・講座があり
私が子ども絵画教室の助手をしているというのを聞いて
横須賀YMCAの絵画教室の講師をしてくれないか と主事に頼まれた

週1回2時間 時給2千円位だったかなぁ
本当は芸美大受験コースの講師をしたかったけれど
講師は足りているということで 子ども絵画教室に回された

いいですよ と気楽に引き受けたのが大間違い
そのクラスには とてつもなく乱暴な男の子がいた

絵なんか描かない 描かせようとすると滅茶苦茶にする
そして教室の中を走り回る 端に積んである体育用のマットの上を飛び回る

小学4年生だったと思う
その子以外に2人 小2の男の子と女の子がいたが
2人も便乗して 3人でふざけまくる

前任の講師は手に負えずに辞めたのだろう
さあ どうする?

初日が肝心と思うが どうしたらよいかわからない
様子を見に来たYMCAの職員に聞く

いつもこんなんですか?
そうです あの子はお父さんがいなくて お母さんが甘やかして育てているみたいです・・・
○○君 さあ降りてらっしゃい ちゃんと先生の言うことを聞かないといけませんよ

YMCAの職員の言うことは 少しは聞くようだ
マットから降りてきて 机に向かって嫌々絵を描く

職員が立ち去ると 他の2人にちょっかいを出す
私がどういう人間なのか試しているようだ

ここは絵を描く教室だぞ ふざけるんじゃない と注意すると
席を立ってマットの上へ・・・ 完全になめられている

ばーか ばーか と言ってマットの上を飛び回る
これは 相当手ごわい

こら 降りてきて机に座りなさい
やーだよ お前の言うことなんか聞くもんか

結局 初日は事態を収拾できず 苦い思いで帰った

翌週 教室へ行くと その子がマットの上でまた飛び回っている
他の2人も一緒に遊んでいる

さあ 始めるよ 皆 降りてきなさい と言うと2人は下りてくるが
その子は 言うことを聞かない

私の分析では 母親が別れた父親の悪口を言ったり
男は信じられない ということを子どもに話すから
その子も 男に対して強い不信感を抱いている のではないか

でもなぜ この子は絵画教室へ通わされているか
体育系の講座へ行かせた方が向いているだろうに・・・
絵を習うということは情操教育でもあるから 親はそれを期待しているのか

力ずくで絵を描かせるわけにはいかない
絵というのは 本来 自発的に描くものだから・・・

まず この子と打ち解けなければならない・・・ そのためには

そこで私は その子に条件を出した
前半は絵を描いて 後半は何をして遊んでもよい

すると その子はマットから下りて机に座った
私の苦肉の策に乗ってきた

好きなものを描いてごらん と言うと
飛行機の絵を描き始めた ジェット機のようだ
横須賀基地が近くにあるからか と思った

10分位描いて 出来たー と言うので見ると
画面の中央よりやや左側に 小さいジェット機が1機のみ
本当は内向的で気が小さいのだろう

それはジェット機
そう 米軍の戦闘機
へー どこを飛んでるの?
海の上 空母から飛び立ったところ
1機だけ? 戦闘機は編隊を組むんじゃないの?
ああ そうか

と言って画用紙に向かい あと2機描き足している

出来たー
どれどれ おー 米軍らしくなったなー 海も描いてみたら
そうか
あと空母も描けるか
描ける 描ける

こっちのペースになってきた

出来たー
どれどれ 空母はよく描けてるけど デッキから飛び立つジェット機があると もっといいなー
そうか

完全にこっちのペースだ

出来たよー 先生 もう遊ぶ時間だよ
おー そうか じゃあ片付けて ○○ちゃんと△△くんも終わりにしようか

すると 3人で大騒ぎが始まった
そこは体操や幼児教室でも使う小さい体育館のような場所だったので
ボールを出してきて投げ合ったり おもちゃで遊んだり・・・

そうか 遊び道具がこんなにあるんじゃ仕方ないなー

終了時間の少し前に YMCAの職員が来て驚いた
いつの間にか私も一緒になって遊んでいたからだ

子どもたちが帰った後 私は経緯を説明した
職員はしばらく様子をみましょう と言ってくれた
それから 前半お絵かき 後半遊び の教室となった

1か月位経ったある日 暴れん坊が来なかった
私は2人に 今日は遊び無しでやろうね と言った
2人は従順で 黙々と絵に向かう大人しい子だった

次週 YMCAへ行くと職員から 暴れん坊がやめたことを知らされた
理由はわからない
私のやり方が間違っていたのだろうか



(余談)
YMCAは採算度外視(?)で講座を開くことがあったが
2人しかいない絵画教室はその年度で閉鎖になった