「トランス・アイデンティティ」展

「トランス・アイデンティティ」展
2004年/鎌倉画廊/鎌倉・神奈川

(同展覧会カタログより)

日下淳一/アイディーブティック

私は10年間、「衣」の作品を中心に発表してきた。服を着替えることにより人は変わっていくことができると考え、人それぞれのアイデンティティに呼応する多様な「衣」を制作してきた。

「衣」の作品を制作する契機となったのは「人間の条件」展(スパイラル/1994年)であり、展覧会テーマに対し「衣・食・住」の3部作を発表した。日本では人間の基本的欲求をこの3つの要素で把握するが、中国ではこれに「行」が加わる。カタログでは「交」と記載しているが、私は「交」という字を当てたい。交通、交易、性交など、交わることも生きていく要のひとつであり、「交」というテーマに取り組みたいと思った。

イメージ 1

「パッシング」*と題する作品は、「交」に係る新作だ。車載カメラで撮影した映像を高速再生処理した動画と、その一場面を切り取った静止画群を対比させている。

「パッシング」動画(部分) http://www.geocities.jp/idboutique/2004passingvideo.html

いつも通り過ぎていた場所に立ち止まると新たな発見がある。逆に、高速度で通過することにより見えてくるものもあるのではないか。

速度は見方を変える。交通は価値を変え、人々の生活をも左右するのだ。たとえば新道をつくると旧道の商店街が寂れ、新たな駅を設置すれば田畑が都市に変わる。交通は単なる移動の手段ではなく、出会いがあり物語が生まれ、そして経済に影響を及ぼすのだ。

アイディーブティックは「アイデンティティを売る店」という意のグループ名であり、「衣」にこだわらず、自立した個人のアイデンティティを探求することが目的だ。住宅も個人のアイデンティティに深く係るものであり、本展では「夢御殿」というテーマで探求した。

建築は経済的条件によるところが大きい。ランニングコストなども含め経済的条件を一切排除したとき、人は建築に何を求めるのか。

作品「夢御殿」は、「経済的な条件を無視したとき、どのような家に住みたいのか」という問いかけに応えて書かれたテキストを図面化したものである。人により夢のスケールは異なるようだが、比較して見られるように、図面はすべて100分の1スケールで統一している。また、「夢御殿」においては、平面図のみを出力している。立面や断面、展開図などを並列すると、急に現実味を帯びて夢が損なわれるためだ。

本展では6組のテキストと図面を出展したが、家に対する要求は千差万別で、その人間のアイデンティティと深く係っていると感じ、今後も継続したいテーマだと思った。

*パッシング(passing)【名】:通行,通過;(時の)経過;死(deathの遠回し語),追い越し,(刑の)宣告,輸送,見落し,(事件の)発生)



(作家追記)
その後 自らの夢御殿の記述を始めるため このブログを立ち上げた

夢御殿は 欲望の赴くまま書き綴った全176話の言葉の建築
欲望その1を開き 読んだら画面右下の[ 次の記事へ ]をクリックすると順に読むことが出来る(読破した人はいないだろう)

夢御殿2は ブログ友だちのために書いた夢御殿(全9話)
欲望その0(プロローグ) 同上

夢御殿3は 美人建築家との再会と題して 夢御殿2で書けなかった一級建築士のために書いた短編(全11話)
美人建築家との再会 その1 同上