夢取物語(第1話)

竜宮城から地上へ戻った私は 渚御殿を訪ねた
そこは人影もなく 閑散としていた

建物は古びれてしまい 長い時が経ってしまったようだ
私は未だ若いままだが 玉手箱を開けてしまった友人たちは皆 歳を取ってしまったのだろう

渚御殿を後にして 私は広大な竹林へと向かう・・・ そこは夢御殿の妄想の源
鬱蒼と茂る孟宗竹(モウソウダケ)の小道を歩く





こんにちは!

ん? 誰?

下名ですよ

え! 伎芸天さん?

いかにも

ずいぶん 歳を取りましたね

貴台は昔のままで ガハ 羨ましい

他の人はどうなりましたか?

玉手箱を開けた時 近くに居たかつなさんは下名と同じ運命

やっぱり・・・

他の皆さんは 違う場所に居られたので助かりました

じゃあ 被害に遭ったのは伎芸天さんとかつなさんだけ?

いかにも ガハハ

他の人たちはどうしたの?

それぞれの御所へお帰りになりました

御所じゃなくて 御殿でしょ

そうでした ガハ

かつなさん 怒ってるかな?

いえいえ かつなさんは優しいゆえ

そお? どうして分かるの?

下名と一緒に この竹林で暮らしております

え?

ご案内しましょう

んー 年寄りのかつなさんに会うのは ちょっとねー

よき伴侶ですぞ

性格いいからなぁ

ガハハ!

ところで伎芸天さんは ここで何を?

竹を取っております

竹?

竹を取って売るのです

ふーん

あまり儲かりませんが 年老いたこの身で出来る仕事です

働き者だもんね

人間は働くように出来ています 貴台も働き者です

ところでさあ 渚御殿へ寄ったら荒れ放題・・・ あれじゃ修繕しないと

他の建物はいかがですかな?

まだ見ていないから分からないけど

貴台の仕事ですぞ ここの管理人ですゆえ

そうなんだよね

しっかり働きなさいませ 下名はこれから竹を取りますゆえ

ん? じゃあ 手伝うよ

いえ 結構ですゆえ

そんな老体じゃ 大して取れないし 運べないでしょ?

生きるのに食べる分だけ取ればよいのです

じゃあ 今日2日分取ってさ 明日は休みにしたら

日々の仕事が生きがいゆえ

じゃあ 私はタケノコ探しをするから 一緒に行こうよ

好きになさいませ

ん! 何 あれ?

はて 何でしょう?

光ってるよ 竹が!

そのようですな

誰かが電飾したのかな?

ガハハ! 電飾するのは貴台くらいですゆえ

んー すごく眩しい!

う~む ちょっと切ってみましょう

大丈夫かな?

少々離れてくだされ では参りますぞ!

ほーい

バッサリ! おお! 何と 中に赤子が!

わ! 全身光り輝いちゃって 俺の電飾スーツよりすごい!

貴台 負けましたな ガハ

んー 完敗

乾杯は帰ってから いたしましょう





(竹取小屋で)

ただいま! 帰りました!

ムフフ~♪ お帰りなさ~~~い♪

今日はお客さんをお連れしました!

アッ! 師匠!

こんにちはー!

いや~ん☆ 師匠にこんなおばあさんの姿を見られるなんて~~~!

年を取っても素敵ですよ

そんなことないでしょ! 師匠の責任ですよ! 夢御殿に来たらこうなっちゃったんだから~☆

怒ってないって聞いたけど

ガハハ かつなサン! その話はもう止めてくだされ

女性にとって若さは命なのよ~ん☆

これをご覧なされ

何よ~ アアア! 赤ちゃん♪ 光ってる☆~~~どうしたの?

天からの授かりものです

誰の子? ジロリ~~~☆

竹から生まれました ガハ 信じられないけど

本当だよー 光る竹を切ったら中にいた

師匠と口裏合わせているんじゃないでしょうね~?

最近 オネエチャンたちとはご無沙汰ゆえ ガハ

ムフフ~♪ まあ カワイイ赤ちゃんが来たから いいわ~♪

しかも光ってるので 電気代節約 ガハ

師匠! 悪いけど赤ちゃんの世話しないといけないから お帰りになって~♪

えー! 伎芸天さんと一杯飲もうと思ったのに

こんな貧しい家に お酒なんかあるわけないでしょ!

ほんと? 伎芸天さん?

そのようです ガハ

じゃあ 私の酒を持って来るよ

ムフフ~♪ ついでに赤ちゃんのお洋服も持って来て~♪

ほーい!





(みか御殿の前で)

みかちゃんにあげた私の家 どうなったかな?
んー あまり変わってないみたい・・・

あ そうか! 渚御殿が老朽化したのは 玉手箱のせいだな
無限上昇建築バベルの塔も 相変わらず伸び続けているし
他の建物も大丈夫そうだし 俺の仕事は なさそうだから

食品庫に備蓄してある酒と服を持って戻ろう!





せんせーい!

あ! みかちゃん

夢御殿 久し振りだね

うん よく分かんないけど バレンタイン企画でさあ 書くことになって

私は天女の役だったでしょー

始めはね

なぜ女官に変更したの?

ん 適役でしょ?

どこがぁ?

私は帝ですよ

じゃあ 私は先生のお守り役ってこと?

まあ そういうことかな

やだあ そんなの

帝の言うことには逆らえない!

あ 先生! また変なこと 言うんでしょ!

例えば?

ちょっと脱いでー とか いやらしいこと

そしたら脱ぐ?

ひっぱたきますよ!

ほらね 適役でしょ

私 電飾天女が良かったのにー

まあ 文句言わずに ちょっとだけだから

どうせまた ギャラなしでしょ!

バレンタイン企画だから チョコあげようか?

逆チョコってやつですかぁ?

ま 上手く演じてくれたらね

フカヒレね♪ 御馳走する約束だったでしょ

物覚えがいいね

先生が忘れっぽいんです!

まーね・・・ じゃあ これから伎芸天さんと一杯

あ みかこも行くー!

ん? ダメだよ みかちゃんの出番は もっと後だから

えーっ! みかこをここに一人残して行くの?

帝の命令ですよ

先生! 伎芸天さんと私とどっちが大事なんですかぁ?

それは やっぱね

伎芸天さんでしょ!

さあね

あ 分かった! みかこがお酒飲めないからでしょ!

んー 今日はずいぶん絡むのね

先生! みか御殿にあるお酒を持って行っちゃだめですよー

え? だって元は俺のじゃん

一旦私にくれた物は もう先生の物ではありません

だって みかちゃん飲めないでしょ?

みかこがお酌するから ちょっと話に付き合って!

んー 帝の出番もまだ先だから 今日は まあ いいかぁ

あのね 車の調子がね・・・





(翌日 竹取小屋で)

師匠は戻って来ませんでしたね~~~☆

ここの管理人ゆえ お忙しいのでしょう

伎芸天さま♪ 竹を売って産着を買って来てくださ~い♪

では 行って参りますゆえ

ムフフ~♪ お早いご帰還をお待ちしてますわよ~ん♪

おや? かつなサン! あれをご覧なされ

な~に? あらら~ん☆ 光る竹が♪

下名が言ったとおりでしょ

中に赤ちゃんがいるの~???

恐らく

赤子は天からの授かりものですから~♪

授かりものと言っても あまり子沢山だと養育費が ガハ

でも~☆ 中の赤ちゃんを見過す訳にはいきませ~ん!

分かりました・・・では バッサリ! おお! 何と 金の延べ棒が入っておりました!

もう~~~! 伎芸天さまの嘘つき~~~☆ 誰の子なの~? この赤ちゃん!☆

いえいえ 昨日は本当に竹の中から赤子が

アハ! もう いいわ~ん♪ 伎芸天さま♪ 金の延べ棒で着物を買って来てくださ~い♪

おつりは下名が使ってもよろしいでしょうか?

何に使うの~???

現代美術作品と骨董 ついでにアルコールも買って参りますゆえ ご容赦! ガハハ



(続く)