欲望その130の4

お召し物は洗濯しましたので
バスローブをお使いください
スリッパのまま リビングへ
お越しください

さっき開けなかったドアの中で
洗濯機の音がする

バスローブを着て リビングへ行くと
おビールでも いかがですか と聞かれる

いいねぇ と言うと すでに用意してあった
ビールの栓を開け 冷えたグラスに注いでくれた

至福の時間だ

君は飲まないのか と聞くと
私もシャワーを浴びて参りますから と言って
バスルームへ入って行く

テーブルの上には ビールのつまみも置いてあったので
それをつまみながら ビールをいただく

他のドアの中はどうなっているのか 知りたかったが
本人の同意なく入るのは ルール違反なので
見たい気持ちを抑え ビールを味わうことに専念した

ビールを1本飲んだ頃 バスルームのドアが開いて
美人スタッフが出てきた

私に貸してくれたバスローブと同じ
純白のバスローブに身を包んでいる

髪を束ね 化粧を落としているが
美しさは 変わらない
バスローブの裾から見える脚は細くて長い

私も おビールをいただいても よろしいかしら
と言う 自分の家なのに なぜ と思うが
奥床しい口調に 心をくすぐられる

私が頷くと 中央のドアを開け
中へ入り すぐビールとグラスを持って戻ってきた

栓を開けると まず 私のグラスに冷えたビールを
注いでくれた
ありがとう と言ってビンを受け取り
今度は 私が美人スタッフにビールを注ぐ

注ぐ速度と角度 そしてビンとグラスの距離が大事だ
きめ細かい泡がグラス上部の3分目にできる
グラスから溢れそうで 溢れない
ビール注ぎの美学だ

乾杯 と言ってグラス同士がキスをする
何の乾杯かと言えば 私と美人スタッフが出会ったことだ

私は 竹林の番人に会いたいが どうすればいいのか と尋ねると
美人スタッフは こう言った

それは気持ちの問題ですわ
会えると思えば 会えますし
会えないと思えば いつまでも会えません

私でさえ 滅多に会えないのに
はじめから 会えないと思っている方は
決して会うことはできません

鋭い

私は 会えたらいいな くらいにしか思っていなかった
本当は 会いたくなかったのかもしれない

未知なる存在が明らかになったとき その魅力は失せてしまう
竹林の番人は いつまでも 未知な存在でいて欲しい
という気持ちがあったのだろう