3) 退学 !?

藝大の実技授業は版画や塑像など多岐に渡って造形の基礎を教えてくれたが
油画専攻であるため やはり油画の課題も出る

静物の課題で 学生がモチーフを組みたて それを30号のキャンバスに描くのがあった
3室のアトリエに分かれ それぞれモチーフになりそうな物を探しに行った

同級生たちは ごみ置場へ行き捨てられたブルーシートや木片などを拾って来た

どんなモチーフになるか お手並み拝見 という姿勢を決めた私は
大学近くの喫茶店へ行き ビールを飲んで夕方アトリエへ戻った

モチーフは予想通り とても汚らしく 描く意欲がまったく湧かなかった
そのとき 浪人時代の予備校での出来事を思い出した



講師がモチーフをセットしていた時 モチーフにした消火器を誤って倒し
弾みでレバーが押されて泡が吹き出し

泡に包まれたモチーフは きれいだった

「そうだ 泡をかければきれいになる」と思った私は アトリエに誰もいなかったので
廊下から消火器を持って来てモチーフに向かけてレバーを握った

ところが 泡ではなく白い粉末が勢いよく噴出し 一瞬でアトリエが真っ白になった
もちろんモチーフも白くなったが 泡のようなきれいさはなかった

「少し予定が狂ったなぁ」と思いつつ 私はそのまま帰り翌日大学へ行くと同級生が騒いでいる
アトリエに置いてあった皆の画材も粉末が掛かり白くなっている

助手が来て「誰がやった!」と言うので「俺です・・・」と答えた



教官室へ呼ばれると2人の担当教官がいて 年配の教官が開口一番
「また君か! 他人の画材を汚して良いと思ってるんですか!」

すると若い教官がすかさず「君は欲求不満じゃないのか?噴射したいんだろ?」
「そうなんです」と私が答えたので教官2人は笑った

若い教官がフォローしてくれたので 年配の教官は
「まあ今回は大目に見ましょう でも今度問題を起こしたら退学してもらうことになりますよ」
と私に釘を刺した

苦労して入ったのに退学になっては元も子もない

私はアトリエへ行き 画材に被った白い粉末を拭く同級生たちに謝ったが
皆の態度は冷ややかだった

イメージ 1

これが その時の絵である